2018/01/26

操縦教育のイノベーション その1


MARUの野望の一つは操縦教育にイノベーションを起こすことです。年間200人近い大学生がグライダースポーツを始めているのに、継続率は高くありません。傾向として、グライダースポーツを楽しむ、というよりは、団体生活を楽しむことに比重が置かれているので、グライダースポーツ自体を楽しんでいるわけでは無いことは理解しています。とはいえ、もうちょっと早い段階でグライダースポーツを楽しむ・楽しめるようになれれば、もっとグライダーフライト自体を続けてくれる若い人が増えてくれるのではと考えています。他のスポーツでも、楽しくなるまでに時間がかかると辞めてしまう割合が高いと言われ「楽しめるように早く上達させること」を課題に挙げているスポーツ(ゴルフ)もあります。

グライダーも同じタイプのスポーツだと考えており、より早く上達できることでグライダーをもっと楽しめるようになるための教え方を模索しています。これまでも試行錯誤を繰り返し、グライダーインストラクターマニュアルからインスパイアされた内容とコーチング、メンタルトレーニングの考え方の中でトライしたい教え方をあたためていたのですが、今回それを実践する機会に恵まれました。

対象となった練習生はWさん。最近クラブに入会された20代男性で、グライダーはまったくの未経験の方です。学生時代はずっとラグビーをされていたとのことなので、スポーツに対する考え方や捉え方はしっかりされています。気合いと根性だけでスポーツをやっていたわけでなく、自分なりの上達した経験や上達しなかったときの経験を持っています。



今回、以下のポイントを踏まえてWさんとのトレーニングを行ってみました。
  1. 初期教育の重要性(初頭性の法則)
  2. イメージ 現在の自分が持っているイメージ 正しいイメージ ギャップは? 
  3. 十分な正しいデモ→実践→何に気がついたか?気づきを与える問いかけ
  4. 言語化
  5. フェーズにあわせた適切な練習内容(できるまえにやらせてはいけないこと、早い段階からやるべきこと、)
  6. まとめての集中、反復トレーニング
  7. 褒める、自信を持たせる、小さな成功を繰り返す、問いかけて考えさせる、トライさせる
1. 初期教育の重要性

Wさんはまだクラブに入会して1ヶ月、3日目の参加で、飛行経験は航空機曳航で4回です。内1回は一時間ほどの同乗ソアリングをしています。
まだほとんど自分のやり方は無い状態ですので、真っ白なキャンパスに描くように教えることができます。ので、教えたことを素直にそのまま実施されます。自己流になっていない段階であるため、最初に基本を教えると忠実に実施してくれます。
インストラクターマニュアルにも初頭効果の話しが書かれています。最初に正しいことをインプットすること、間違ったイメージをインプットすると正しいイメージを再インストールするのに時間がかかる、と書かれています。

まずは以下の点を説明するプリブリーフィングを実施しました。

a. 視点の持ち方
 櫻井玲子さんの提唱されている「絵を見るようなイメージ」で全体を見ることをイメージしてもらいました。

「xxに注意する」という言い方になると、「xx」に注意がいってしまいます。結果、「点」で物をみるようになってしまうので、点でみるのでは無く、全体を絵で見るように心がけます。また、「xxするな」といった教え方、いわゆるネガティブワード(否定形)での指導は適切でないと言われます。目標設定においても同様で、「xxできるようにする」「xxをするようにする」といったポジティブワードで目標設定します。


櫻井さん資料より引用



ある一部分を指摘しすぎる(例えば速度)と、そこばかりみてしまうので、全体的に捉えさせること、
全体的に捉えているところから、狭いところに意識が集中してしまった場合の差を理解させる、意識させる、というところでしょうか。


b. スティックの持ち方
 「上の方を添えるようなイメージで握ること」を伝えました。
何も言わないと、多くの人がスティックを緊張状態から握りしめてしまいます。ラケットスポーツをしている人であれば、ラケットをどのように持っていたか、ゴルフクラブをどのように持っていたときに上手く打てたか、を伝えます。何故添える程度なのか(舵から伝わる気流の力を感じる為)、握りしめると何故ダメなのか(舵から伝わる気流が感じられなくなる、腕の筋肉の緊張状態から全身の筋肉の緊張状態となり、G変化が感じられなくなる)を理解してもらいいます。スポーツのバックグラウンドがある人だとこのあたりが伝わりやすくなると思います。

c. 舵の動かし方
 スティックの動かし方について、説明しないと右肘を中心の円運動をしてしまうので、結果的に右旋回時にエレベーターを下げる動きが伴いピッチダウン、左旋回時にエレベーターを上げる動きが伴い、ピッチアップします。右肩を中心に動かすイメージで、舵を左右にまっすぐ動かす運動であることを意識してもらいます。

 ラダーの動かし方について、足は手に比べると感覚が相当鈍いので、足を使うスポーツの方が手を動かすスポーツより難しいと言われます。初めて自動車教習所に行った頃に、クラッチ、アクセルが上手く動かせなかったことを思い出してもらいました。また、右を踏んだら、同じだけ左を戻す、股関節で動かすことをイメージしてもらいました。

d. リラックスすること
 最初のフライトで緊張状態になるな、というほうが難しいのですが、緊張状態になるとなにがおきるかを説明しました。
 ・視野が狭まる。緊張状態になると情報を遮断することで処理能力を高める人間の脳の自然な動きであることを理解する。逆に言えば、視野が狭まっている = 緊張状態
 ・筋肉がこわばる = G変化を感じられなくなる

スポーツの素養があると、緊張がグライダーにどのような影響があるか?の説明がしやすくなります。上手く行くとき、上手く行かないときの自分のパターンを知っているからです。
 例 問 ラグビーでゴールキックに失敗するときはどんなときでした?
 答 結果に追われて緊張していて。。 これを決めれば、と思いすぎて。。
 そうですね、人間は緊張状態に入ると、視野が狭くなります。視野が狭くなると、傾きの変化に気がつくのが遅れます。


 自分の経験と、結びつけさせて理解してもらいました。

 舵を握りしめない、とかも、スポーツをやっていると当たり前に受け取ってもらえます


e. 見張り
 アウトサイドウオッチは初期段階から教えています。
 お仕事柄、目の構造には「盲点」見えない場所がある、「中心視」せまい、「中心視野」、「周辺視野」動きを認識できる、は理解されていました。これらの知識を踏まえた上で、なぜスキャンニングが必要か?(盲点、周辺視野をつかって、動いている物体を認識、その後中心視野で認識)を理解してもらいます。スキャンニングを教えるにあたり、目の構造を理解することで、練習生にスキャンニングの重要性を正しく効果的に理解してもらえることと、練習初期から実施することで、「習慣化」させます。



操縦教育のイノベーション その2」に続く

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