2016/04/02

BGA グライダーインストラクターマニュアル 翻訳完成!



BGA Instructor Manual (イギリス滑空協会のグライダーインストラクターマニュアル)の翻訳が終了し、ついにリリースする運びになりました。2012年から20名のチームで分担して翻訳を開始し、英文ページ数で 167ページ、日本語訳後 29万字、258ページの大作になりました。チームの皆さんに翻訳頂いた後に、レビュー、再レビュー、再々レビューと数回のレビューを繰り返し、ようやくリリースにこぎ着けました! 昨年10月からは毎週末かかりきりで、言い回しの難しい英語にも大分手こずりましたが、ようやく完成です!

経緯については下記記事を参照ください。

JSA インフォメーション 299号 インストラクターマニュアルプロジェクト
JSA インフォメーション 303号 インストラクターマニュアルプロジェクト 続報


ただし、この翻訳版マニュアルは誰彼問わず配布できる、という性質のものではありません。 British Gliding Association からは「将来的に日本版グライダーインストラクターマニュアルを作成する際の参考版として利用することに限っての利用」だけが認められているのです。

したがって、配布については滑空協会から各クラブの代表者を経由して各クラブのインストラクターに限定して利用して頂くよう配布の案内をさせて頂いています。そのため、配布させて頂くインストラクターの方のお名前を頂戴しております。

またこういった事情から、配布、利用についてはインストラクターに限定しており、再配布は遠慮していただくようお願いしています。インストラクターの方でまだ配布の案内を頂いていない方がいらっしゃいましたら是非ご自身のクラブの代表インストラクターの方に相談してみてください。(もしも滑空協会からの連絡が届いていない場合は滑空協会宛にご連絡頂けますと幸いです)

というわけで今回のブログでは、このマニュアル翻訳版や、つづく日本版インストラクターマニュアルの作成を通して、私がやりたいと思っていることをつれづれと書いてみることにしました。

私は、皆さんがもっとグライダーを、ソアリングを楽しめるようになってほしいと常々思っています。そしてそのためにグライダーの技量をもっと効率的に向上させる方法を確立させたいと考えています。

それが私の考える「操縦教育のイノベーション」です。

私はグライダーを始めて25年が過ぎ、飛行時間は3000時間を超えました。
こんなに飛んでいるのに、飽きもせず、最近はグライダーでのソアリングが楽しくて仕方ありません。 この状態になったのは 飛行時間1800時間を超えた頃、2008年に世界選手権に出た後くらいからでしょうか。あきらかに壁を一つ越えて楽しくなりました。
それ以前の1000時間 - 1600時間くらいのころは6000フィートくらい上がる空でないと楽しくないと思っていました。思うにこのころはまだ大切なものが見えてなかったのだと思います。

でも、これでは時間がかかり過ぎです。多くの人はここに至る前に空へのモチベーションを失ってしまうのではないでしょうか。もっと効率的に上達することができれば、もっともっとグライダーを楽しめるようになるはずです。

ここまで時間をかけず、効率的に本質が学べる、教えられるプログラムを開発できれば、本当にグライダーを楽しむ人が増え、楽しめる人が増えればこの世界はもっと発展するはずです。コストが、時間が、空域が、といった制約要因は様々にありますが、人間は本当にやりたいとおもうことであれば制約要因を乗り越えてやるようになりますので、いかに「本当にやりたいか」と思うようにさせることが大事と思います。

これは多くの人が経験することですが、ソアリング、グライダー操縦の上達の途中で壁に当たってしまい、成長が止まってしまい、楽しくなくなってしまう時期があります。人によってはそれが早い人もいますし、遅い人もいます。どんなレベルであれ、成長が感じられている間は楽しいのですが、成長が感じられなくなると楽しくなくなります。楽しくなくなると(成長しなくなると)モチベーションが感じられなくなり、このスポーツから離れていきます。

私は、継続的に成長を感じさせられることがこのスポーツを継続できる秘訣だと思っています。(どんなスポーツにせよそうだと思います。ゴルフでは2年でスコア100を切れるとおもしろさを感じて続けるそうで、2年で100を切れるような教育プログラムを考えているとの記事をどこかで読みました。)

では、この現状をどうやって変えていったらいいのでしょう?
私は、①技術論として、「正しい話を教えること」 と、②方法論として、「自発的に考えて学ぶ姿勢を開発すること」 の2つを考えています。

成長を加速させるためには、「正しいイメージを早期に形成すること」、そして「正しい手順を伝えること」が必要と思います。

多くの人は「自分で出来ることはこれくらい、これ以上は無理」と自分で自分の限界を決めてしまう「自己イメージ」を持っておりますが、この「自己イメージを作り替える」ことで限界を超えることができるようになります。

また、「失敗を指摘する方法」では無く、「良いイメージを残す方法」が必要です。細かく指摘する方法では無く、「自発的に考えさせる方法」が必要と思います。

このイギリスのテキストではおそらく当然のこととして記載が無いのですが、ヨーロッパではグライダースポーツは本質的に 個人のスポーツ として教育されます。ところが日本では現在、グライダー教育は 集団のスポーツ(学校体育)が前提になっています。

実はここに、大きな落とし穴があります。集団で管理されたローカルフライトに慣れ切ってしまうと、個人の責任のもとにより広い世界へ飛んで行く技術、つまりクロスカントリーフライト への移行が自発的に、かつスムーズに行われなくなってしまう可能性が高いのです。そこから先の世界にこそ、グライダースポーツの本当の楽しみが待ち受けているにも関わらず…です。
(操縦教育の早期からの考え方自体を変えるべきかもしれません)

上記を実現するために、新しい教え方の標準化が必要と思っています。そのために必要なのはテキストと、講習会(実地、学科)を通じた伝搬です。とくに指導者層となる人に伝えていくことが必要と思います。新しい教え方ができる人が少しずつ増えていくことで一歩ずつ変えていけるようになると思います。

このためには指導者がつねに学び続ける意識を持ち続けること、学び続ける意識を持ち続けるにはつねに自分を高めたい意識を持ち続けることが必要と思います。

「学ぶことをやめたら、教えることをやめなくてはならない」 「コーチである以上、ずっと学びつづけて欲しい」2002年のサッカーフランス代表チーム監督のロジェ・ルメールさんの言葉です。日本サッカー協会の公認コーチ研修ではかならずこの言葉が紹介されているようです。

というわけで、まずは BGA Instructor Manualの 参考になる部分を使っていき、足りないと考えられる部分は自分たちで書いて、伝えていくことが必要と思っています。

この翻訳プロジェクトがその第一歩となることを期待しています。



このマニュアルの章立て

8つのセクション(章)に分かれており、それぞれのチャプター(節)の流れは下記のようになっています。

1  操縦教育手法について
2  地上作業についての座学
3  ログブック取り扱い要領
4  チェックリスト
5  ルックアウト(見張り)
6  エアマンシップ

7  舵の効果
8  トリムの利用方法
9  直線滑空
10 旋回
11 エアブレーキとスポイラー
12 アプローチ
13 着陸

14 場周飛行1. ブリーフィングとデモンストレーション
15 場周飛行2. 練習生の飛行

16 ウインチ曳航
17 航空機曳航

18 ストール
19 スピンとスパイラルダイブ

20 ファーストソロ
21 フラップ
22 機種移行
23 ソロ飛行の監視
24 サーマリング サーマルへの進入とセンタリング技術

25 ナビゲーション
26 無線交信要領
27 気象と教え方
28 曲技飛行のトレーニング

29 トライアル練習の実施
30 インストラクターのしゃべり方
31 組立・分解と飛行前点検


我々は練習生を相手にすると 体験搭乗 → 単舵操作 → 直線滑空 とフライトを進めていますが(上記の7節以降から始めているケースがほとんど)、この本ではその前の1〜6節で 空を飛ぶ上で最低限必要なこと を記しています。

大学航空部出身の私の教わり方(教え方)では少なくとも 5 Lookout6 Airmanship の部分の教育が欠けていることに気がつきました。私が大学生で航空部入部時はまだ『風を聴け』が無く、『グライダー操縦の基礎』がベーシックのマニュアルでした。練習生の操作は直線滑空や単舵操作から始まっており、このインストラクターマニュアルの Section 1の部分の教育が改めて欠けていたなと改めて感じました。
「風を聴け」は、2、4は含まれているものの、1、3、5、6は漏れていますので、改善が必要と感じました。

人は、新しいものを見るとどうしても How の話に目が行ってしまいがちですが、皆さんがこのテキストを読み込む際には、まず、 What, Why を考えてみてください。このテキストが何を目的にパイロットを育てようとしているのか?

私は、このテキストは 「一人の独立したクロスカントリーパイロットを育てる」ことを目的としていると思います。

もちろんこの本には、皆さんがにわかには受け入れられないものもあるでしょう。でも、まずはその背景としてどういった考えが根底にあるのか、一人の独立したクロスカントリーパイロットを育てる、という観点で、現在日本で主流の教え方と、比較してみることを期待しています。そのためにはインストラクター自身がクロスカントリーパイロットとは何かを考える必要があります。

配布と同時にアンケートも配布させて頂いています。無記名で回答できますので、お気づきの点がありましたらお気軽にアンケートでお知らせください。

あわせて日本版インストラクターマニュアル作成チームも立ち上がりつつあります。こちらのプロジェクトについても興味がございましたらアンケートでご連絡を頂けますと幸いです。

丸山 毅

0 件のコメント:

コメントを投稿