2013/09/20

グライダーと食事② 〜 フライト中の栄養補給 〜

7月の欧州選手権当時、まるが機内に持ち込んでいた栄養食など。


 前回はまるの水分補給法とフライト直前のお昼ご飯についてお伝えしました。インタビューした私自身とても勉強になったので、もしお読みでない方がいらっしゃいましたらぜひ「フライト中の水分補給と熱中症」 と 「グライダーと食事①」をご覧下さい。

 さて今回は飛び上がった後、フライト中の栄養補給とトイレのお話です。タスクによっては5時間も6時間も飛び続けるパイロットが競技中その機内に何を持ち込んでいるのか? 詳しくインタビューしていきましょう。

 実はインタビュー後半で話があらぬほうへ飛びます。ひと一倍「考える」まるが「考えないで判断する」ことで悩むという話。スポーツを志す者には普遍的な話題でしょうが、赤裸々な悩みだけに真実味があって面白いです。ぜひ最後までご一読を。



ーーーグライダーにはどんな食事を持ち込んでいるの?

水分のほかにワンフライトで持ち込むものはこんな感じ(写真上をご参照)。右から
・ゼリー状の食品(味の素・アミノバイタル ゼリー)2袋
・スティック状食品(大塚製薬・SOYJOY)2袋
・ガム(ロッテ・キシリトール)
・携帯ミニトイレ

ーーーさすがにお箸やスプーンで食べるようなものはないね

うん。携行に便利で食べやすくて消化しやすいものを選んでる。もちろん、右手は基本的に操縦桿を握っているから、できるだけ片手で扱えるようなものがいい。

ーーー選んだ理由を教えてくれる?
   アミノバイタルは水分補給のインタビューでも出てきたね

アミノバイタルはナトリウムの補給ができるスポーツ飲料として、別途チューブ付きのボトルに入れて積んでるけど、これはゼリー状の食品。ナトリウムはもちろん、スポーツ時に大切なアミノ酸が補給できる。スポーツ飲料と大きく違うのはカロリーかな。ひと袋100g で約100kcal のエネルギーが補給できる。疲労回復にもいいし、マラソンランナーが使っていることを真似てみたよ。実はチームリーダーの赤石がマラソン好きで「スポーツは科学です!」って常日頃から言われているんだ(笑)。


アミノバイタル ゼリー の栄養成分








ーーーカロリーメイトじゃなくてSOYJOY派なんだね

SOYJOYはカロリーメイトと同じ大塚製薬の食品。どちらも食品表示としての名称は「菓子」だけど違いは原材料。カロリーメイトは小麦粉がベース。SOYJOYは大豆粉がベース。

カロリーメイトがビタミンやミネラル、タンパク質、脂質、糖質といった多くの栄養素をらバランスよくとり揃え「食事」としても耐えうる製品としているのに対し、SOYJOYはあくまで大豆にフィーチャーした食品。「食事のつなぎ」や「ちょっと小腹が空いた時」に楽しむような位置づけになっている。

SOYJOY(ストロベリー味)の栄養成分







カロリーメイト(フルーツ味)の栄養成分







まあ言ってみればカロリーメイトは栄養バランス第一のスペック主義。SOYJOYはもう少し美味しさや楽しさを追求した感じ。味のバリエーションもSOYJOYのほうが多く、僕も味や食感でコイツを選んでる。好きなものを食べて気分転換することも大切だからね。

ーーー上空で摂取するカロリーはどのくらい?

SYJOYのストロベリー味はひと袋で133kcal。機内にはこれを2袋、アミノバイタルのゼリーを2袋持ち込むから、合計460kcalくらいかな。オニギリ1個のカロリーが150〜200kcal くらいだから、飛び上がってからもオニギリを2〜3個食べてる感じ。

ーーー上空ではどんなタイミングで食べているの?

アミノバイタル、SOYJOYを1時間ごとに補給してる。水分補給と同じで「お腹が減ってから食べる」では遅いんだ。空腹を感じた時はもう血糖値下がっているワケで、そこから補給しても血糖値が戻るまでに時間がかかってしまうからね。エネルギーが切れる前に補給する、ので、飛び続けるとカロリー取り過ぎで太る(笑)

ーーーポーランドで買い揃えたの?

ヨーロッパじゃ売ってないみたい。いつも日本から持ち込んでるよ。昔は現地で調達できるもので試してみていたのだけど、なかなか良いものが無くて。悩みの種は、競技が2週間あるのでバカにならないくらいの重さになること。それに、今まではルフトハンザはエコノミークラスでも最大 23kg の手荷物をふたつ持ち込むことができたけど来シーズンはどのエアラインも無料受託荷物のルールが各社で統一されて、制限が 23kg ひとつになるんだ。これは結構イタイね。

味の素のアミノバイタルも大塚製薬のSOJOYも欧州で扱ってくれないかな。人気出ると思うんだけど。ゼリー系食品はあまり見かけないからね。

ーーーガムも積んでるんだね?

これは集中力を高めるためだよ。アゴの筋肉を動かすことで脳への血液の循環が促進されるって言うでしょ。ドライバーの眠気防止とか。緊張感を和らげるのにも役立つしね。

ーーーこれキシリトールガムだけど、噛みすぎてお腹緩くなったりしない?

…どういうこと??

ーーーおっと! まるでも知らないことがあるんだね
   製品の注意書きを見たことない?
   「一度に多量に食べると体質によりお腹がゆるくなることがあります」
   とか書いてあるよ。
   僕は以前、知らずに仕事中噛みまくっててトイレによく通ってた
   
知らんかった…。歯にいいからと思って選んでたけど。ガムは確かに連続して幾つも噛むことがあるので対策を考えよう。

ーーー簡易トイレもあるね

トイレも食事と同じで、貯めてからではなく、余裕のあるうちにこまめに済ませてしまってる。大切な判断を迫られるような場面や、高度が低くなってしまった時にガマンしきれなくなったらもう最悪。成績はもちろん、命にも関わってくるからね。

年齢とともに変化することもあるよ。昔は前日に飲み過ぎたりして飛行中にトイレが我慢できなくなる、なんてことは2週間の競技日程中1日くらいしかなかったんだ。でも最近は水を控えめにしていても上空では頻繁にトイレしたくなるようになった。だから最近は簡易トイレを3つ積むようにしている。

ーーーなるほど
   でも水分補給にしろ機内食にしろ、いろいろ計算して実行してるんだね
   まるは昔から「考える」パイロットだったからなあ

そりゃそうだよ。ヨーロッパの強豪を相手の真剣勝負だから最低限、メンタル面やフィジカル面のケアでおくれを取るワケにはいかないからね。何事もロジカルに考えて実践して行く必要がある。

でもヨーロッパ選手権に参戦して「考える」ことについてちょっと考えさせられた。人間、考えていたらそれだけ反応が遅くなる。人は大脳の新皮質で考え、動物的な判断は旧皮質で行っている。でも旧皮質のほうがスピードに優れていてその差は0.2秒もあるという。

だから新皮質で考えた新しい動きを旧皮質にプログラムして、旧皮質だけで動けるようにすることが大切…。これはサッカー元日本代表の岡田監督の受け売りなんだけど、僕は上空でまだまだ悩んで決断していることが多いんじゃないかと思うんだ。

もうひとつ、女性ダイバーの二木あいさんが深く潜るときは思考せず、脳の動きをなるべく止めることで、酸素消費量を減らした活動ができる、っていう話をされていた。突き詰めれば旧皮質だけである程度動けてしまうっていうことだよね。


そんな話を耳にするにつけ、「今の自分は考えすぎているんじゃないか」「もっと考えずに動けるように変わることが必要なんじゃないか」と思うようになってきた。昔はもっと考えずに飛べていた気がする。

ーーーははあ。考えずに動ければその分タイムを短縮できると

うん。グライダーは頭脳戦だよね。刻々と変わる気象条件とその日のタスクを照らし合わせながら最も効率的な飛び方を判断していなければいけない。でも大局的な作戦や判断も大事だけど、一瞬一瞬の小さな判断の積み重ねも大事。考えすぎて判断が遅れるほど、状況が悪化してタイムも加速度的に悪化していくことが多い

ーーー考えずに判断できるフライトってどんなイメージなんだろうね?
   サッカーではボールをパスされた瞬間に次へ動いているとか
   素人でも分かりやすくイメージできるけど

残念ながらまだそのレベルまで達することは出来てない(笑)、でも、良いパイロットのフライトトレースを見ていると全く迷いが無い。(もちろん10日もフライトすると1日くらいは迷っている日はあるんだけど)。

実際の競技ではどの機体をマークすべきか、どの雲を使ってどのルートでどれだけ攻めればいいのか、地形は? 風は? などなど、判断すべきことは沢山あるけど、それらを考え込まずにサッと判断できるようになるといいな。

ーーーなるほどね。考える丸山から、考えずに判断できる丸山への進化か
   その壁は学生時代もあったはずだよ。僕は覚えている
   だって地上では誰よりも努力していたのに、ソロフライトが本当に遅かったもの
   不器用だったよねえ 教え子の学生達には言えないけど(笑)
   でもその壁を越える度に大きく進化してきたはず

そうだなあ。どうやったら克服できるかなぁ。どんなトレーニングを課していくか、また色々「地上で」考えてみるよ。上空で考えずに済むようにね。


 というワケで飲み物、食べ物シリーズはこれで一旦終了です。みなさんはフライト中、 あるいはスポーツ中の水分&栄養補給にどんな工夫をされていますか? 色んなご意見をお伺いしたいです。ぜひぜひコメントをくださいね。

0 件のコメント:

コメントを投稿